「都市」と「近くの農業・農村」を結ぶ柏たなか農園のブログ

投稿日:2016年3月23日 11:12 pm



 柏たなか農園の主力作物もち麦は3月初めに缶コーヒー1本ほどの背丈が月末には4本分にもなります。毎日見ていても成長が分かるほどの急成長です。この時期のもち麦はとても貪欲で、根からも葉からも茎からも穂からさえも、栄養になりそうなものは何でも摂りこんでしまいます。5年前の3月、まさに伸び盛りのもち麦に悲劇が襲いました。原発事故による放射能の飛散です。2011年3月21日、東京電力福島原発で大量に発生していた放射性物質が雨雲に乗って東京方面に向かって南下し首都圏に大量の放射能を含む雨を降らせたのです。千葉県柏地方は特に影響の大きかった地域で、柏たなか農園のもち麦も大量の放射能を摂りこんでしまいました。



 もち麦の刈り取り時期は5月末、6月からは新麦販売を始めます。2011年も6月から販売していたのですが、しばらくたって検査結果が出ました。その結果もち麦からも基準値に近い放射能が検出され出荷自粛、つまりもち麦の在庫をすべて廃棄しなければならなくなりました。影響はもち麦にとどまりません。放射能の雨による被害は他の農産物にも及び、大量の野菜が廃棄されました。
 その後、放射能の数値は下がり、農産物に含まれる放射能の検査結果が「検出せず」に変わって行きました。農産物の廃棄は大きな損失でしたが、それより大きな問題は3月の雨による農産物の汚染という一時的な被害だけでなく、その後長く「風評被害」が続き、地域社会にまで打撃を与えたことでした。
 2011年3月の雨から月日が経ち柏産の農産物から人の体に悪い影響を及ぼすレベルの放射能はほとんど検出されなくなったにもかかわらず、柏の農産物が敬遠される傾向は続きました。農家にとってもちろん大打撃ですが、それだけでなく家庭菜園で採れた野菜を近所の親しい人に分けることも控えるということさえ起きていました。放射能汚染は人と人のつながりにも暗い影を落としていったのです。住み慣れた地域を捨てて転居していった人もいました。
 このままでは食べられる農産物も食べられなくなり、住める場所にも住めなくなってしまいます。その先にあるのは地域の崩壊です。ではどうしたら良いのか?ある人は「もの言えば唇寒し。農産物の検査データなど公表しなければよかった」といいました。別の人は「風評被害を番組や記事で流すマスコミを訴えて謝罪させるべきだ」と息まいていました。柏地方に住む人々にとって腹立たしく、残念な状況でした。どうすれば打開できるのか、この時こそ柏地方の人々の知性が試されていたのだと思います。



 2011年夏ごろから一つの市民活動が始まりました。「安全・安心の柏産柏消」円卓会議という集まりです。農産物の放射能検査の結果が「安全」とされても消費者にとっての「安心」にはつながらないという状況の中で、農家と消費者が専門家を交えて直接対話の場を設け、打開の道を探って行こうという試みでした。円卓会議の中では参加者が測定データという現実に向き合い、この地域で生きて行くために「どこかで折り合いをつけることが必要」ということを理解し、現実的な解を提示するところまで行きつくことができました。(活動の詳細は『みんなで決めた「安心」のかたち』という本に詳しく載っています)この活動は原発事故という危機的な状況に被害地域はどう立ち向かうべきかという課題への一つの現実的な解であり、国際的にも高く評価されているそうです。
 もっとも、柏地方の放射能汚染は2011年3月の雨だけの一過性でしたが、原発事故周辺地域ではいまだ「安心」と言えるレベルにはほど遠く、折り合いをつけると言っても容易ではないはずです。いまなお炉心溶融を起こした原子炉内でどのような核反応が進んでいるのか、あるいは止まっているのかも確認できない状況の中で政府だけが「アンダーコントロール」と強がりを言い続けるのは却って不信感を募らすばかりのような気がします。
 円卓会議のことは以前このブログ欄でも紹介したのですが、そういう私はこの時、畑の放射線量を測ってもらい基準値を超える畑の土を取り除く作業をやってもらうだけで、自分から積極的に動き出すことはできませんでした。今になって円卓会議に集まった人たちが示してくれた柏地方の知性の高さに敬意を表するばかりです。

投稿日:2015年11月20日 9:31 pm



柏たなか農園の主力作物であるもち麦の種播きがほぼ終了、半年後の収穫を待つばかりです。今年の種播きは10月中に堆肥入れを終わらせていたのでその後の作業は気分的にも少しゆとりを持てました。同じ作業量でも追われるばかりというのと少しでもゆとりがあるのとでは肉体的にも精神的にも負担感が違います。




麦の発芽は早いです。最初に播いたのが12日でしたが5日後にはほとんど発芽していました。雨降りの後、黒に近い濃い茶色の畑に一面、発芽したばかりの麦が角を立てているように見えます。これから畑の表面がうすい緑色に覆われますが、冬は背丈があまり伸びず、しばらく地下の根を広げていきます。



利根川の堤防側にある体験農園の自由区画の端には皇帝ダリアが植わっています。高さ2メートルを超すほどの草丈の頂点にいまちょうど薄紫色の花を咲かせているところです。この時期、周りはほとんど枯れ草ばかりという時に、まさに孤高に立つといった観があります。

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投稿日:2015年10月29日 10:44 pm

11月中ごろのもち麦種播きに向けて最大の課題、堆肥の撒布が終わりました。とはいっても今年は若い人に作業をすべてお願いしてしまいました。作業日数はわずか5日間、さすがです。



 

堆肥を畑に入れる作業は専用機械があれば簡単なのですが、機械なしでやるのは大変です。まずスコップを使って堆肥を軽トラの荷台に積み上げます。軽トラ1ぱいで約300kg、スコップ1回で1kgとして300回スコップを上げ下げすることになります。10アール(1000㎡)あたり2トンの堆肥を入れたとして軽トラで約7はい、もち麦畑は合わせて80アールあるので堆肥を撒き終わるまでにスコップを16000回も上げ下げする計算になります。

 





手首も腕も腰も痛くなるし、撒いたはずの堆肥が風にとばされ戻ってきて自分の顔にあたることもあります。作業終了後にはなをかむと鼻の穴についた堆肥混じりの土埃でティシューに黒い粘液がべったりつきます。この作業が年間の農作業で一番体への負担が大きいと思います。昨年までは一人でやることもあったのですが、今年は無理しないことにしました。


 堆肥撒布の前の準備も楽ではありません。まず夏の間、伸び放題だった雑草を除草剤と刈払い機で取り除きます。
23週間で畑が枯れ草で覆われた状態になります。そこではじめてトラクターを使って耕うんできるようになります。

 堆肥は利根川を挟んで対岸の守谷市にある畜産団地から運んできます。団地では約1000頭の乳牛を飼っており、牛たちの排泄物を使って牛フン堆肥を作っているのです。この堆肥をダンプで畑まで運んできます。






 堆肥工場は畑から直線距離で約3km、“目と鼻の先“に見えますが、間にある利根川を渡るの橋が近くにないので、遠くの橋を渡って行き来すると片道20kmにもなります。

 

15往復して畑に運び込んだ堆肥は約15トンにもなります。これを畑の隅に積み上げておいたのですが、今回の撒布でこれらの堆肥をほぼ使い切りました。 





大変な重労働であるため、一度作業を他の人にお願いしてしまうと来年以降、再び自分一人で堆肥撒布の作業をやろうという気は起きなくなるでしょう。堆肥撒布が片付きとにかくほっとしています。



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投稿日:2015年7月10日 10:48 pm



7月に入って雨続きだった空にやっと日差しが戻ってきましたが、この間の低温、日照不足のせいで雌花の実が膨らまないうちに落ちてしまいました。受粉しなかったためです。

スイカのツルはもう畑いっぱいに広がっているのに実がついていない風景はあまりに寂しい。ツルを延ばし歯を広げてせっせと光合成をやっても栄養分の持って行きどころがないのです。

 

 

スイカは柏たなか農園の夏の主役です。以前は5月末に麦刈りした後にスイカの苗を植え付けていました。麦刈りの後畑に残る麦わらを100%活用しようと考えたからですが、これだと収穫はお盆過ぎになり、スイカの旬の時期に間に合わなくなります。このため、昨年からは少し早めて5月中頃に早出しスイカ、麦刈り後の610日頃に遅出しスイカと2回に分けて植え付けるようにしました。本来なら今頃早出しスイカが大きくなり始め、真夏の強い日差しの中で甘さがどんどん増してゆくはずです。ところが早出しスイカは雌花がほとんど受粉失敗です。かろうじて受粉したものもまだ親指大くらいの小さな実しかついていません。このままでは今付いている実が大きくなる前にツルが枯れ上がり、甘いスイカの実にならないうちに終わってしまうかもしれません。

 

 

一方、スイカより早く植え付けたサツマイモは順調にツルを伸ばし始めています。長雨のおかげか、雑草もスイカのツルを凌ぐほどの勢いで伸びてきており、これから雑草取りに追われそうです。それでもスイカのように雌花が受粉するかどうか、スタートのところで心配しなくて済むのがありがたいです。



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投稿日:2015年6月11日 5:42 pm

 2015年産もち麦の麦刈りから10日が過ぎてまだ後処理の作業に追われています。もち麦の保管、袋詰め作業と並行してもち麦の刈り取り跡に残された麦ワラの処理がとても重要なのです。

  

畑にはもち麦の麦ワラがたくさん残されています。この麦ワラが夏から秋にかけての野菜作りにとても役に立ってくれます。夏の畑は強い日差しと数週間も続く日照りによる地下水位の低下、さらに病害虫が繁殖するなど作物の生育環境としては過酷な状況が予想されます。そこで、麦ワラを使って夏の畑の厳しさを少しでも緩和しようという狙いです。

 

 

 

麦ワラを回収して体験農園の実習畑の入口に積んでおき、さらに夏から秋に使いう分はビニールハウスの中に保管しておきます。余った麦ワラはスイカ畑の畝間を覆うように並べて、スイカが気持ちよくつるを広げるのを手助けします。さらに畑にすき込んで土壌の改良材として役立ってもらいます。

 

 

 

 麦ワラは束にして作物の株元に並べます。トマト、ナス、ピーマン、シシトウなど。キュウリやゴーヤは株元だけでなく根が広がる範囲を覆うようにたくさんのワラ束を並べます。作物のまわりに並べたもち麦のワラ束は畝の表面からの水分の蒸発を抑え、畝の表面の温度上昇を緩和し、さらにワラ束を厚くして日差しを完全に遮れば雑草の発芽を抑えてくれます。柏たなか農園の野菜作りの中で麦ワラはとても重要な役割を担っているのです。

  

 2015年産もち麦の販売は今月下旬からの予定です。少し先行して14日(日)10時~14時に柏駅前の高島屋で新麦の試食販売を行います。畑に残された麦ワラの処理と販売用のもち麦の袋詰め作業と同時並行で行かなければならず、今が柏たなか農園の一番忙しい時期です。

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