「都市」と「近くの農業・農村」を結ぶ柏たなか農園のブログ

投稿日:2023年7月18日 11:01 pm

 千葉県柏市の直売所「かしわで」に最後のもち麦を納品してきました。柏たなか農園の主力作物であるもち麦は昨年から生産を止めており、残る在庫を細々と出荷してきましたがそれもついに底をついてしまいました。




 柏たなか農園のもち麦事業は農園発足から間もない
2010年にスタートし、その後のもち麦ブームの追い風もあって売上を伸ばし柏市を中心とした千葉県北西部でもち麦の有力ブランドへと成長してきました。

 特に直売所かしわでには生産開始から間もなくもち麦を置いていただきその後の成長の足がかりになったこと、深く感謝しております。当時もち麦といっても知名度はほぼゼロ。かしわでの店長さんも初めは心配顔で、店先での試食販売で来店客の3人に1人が買ってくれるほどの反応を見てやっと受け入れてくれました。その後、もち麦が健康食品としてテレビでの紹介番組が増えるなどもあり販路も急速に広がって行きました。柏市内では「道の駅しょうなん」、「京北スーパー」、この地域に多数の店舗を持つ「セレクション」、東京方面をテリトリーとする「東都生活協同組合」などでもお取り扱いいただきました。さらに九州地方、中部地方、東北地方、さらにネット販売へも販路が広がって行きました。

 順調に推移してきたもち麦事業を店じまいすることに対しては取引先の皆様からも「なぜ?」と聞かれました。リピーターも多く、根強い人気の商品だけに不思議に思われるのも当然です。その理由とは一言でいって「跡継ぎ失敗」です。事業が順調だったので後継者については深く考えていなかったのですが、やはり「誰でもやれる」ほど甘くはなかったのです。

 2021年初、後継の会社代表に据えたのは息子の一人でした。後継の経営者はえてして「利益の増大」といった目に見える成果によって前任者より高い評価を得ようとします。後任に据えた息子も製品の単価を引き上げるなどで売上を増やす一方、経費は一部社員の個人負担にするなどで削減するという、まさに”異次元の利益増大計画”を考えたようです。当時はコロナのさ中でもち麦の売上も頭打ちな中で商品の値上げは受け入れてもらえず、経費の支払い抑制も限度があり、目論見通りには行きませんでした。

 柏たなか農園にはもち麦の他に「土の学校」という事業があります。都市の住民に家庭菜園での野菜の栽培の仕方を教えるカルチャースクールです。後任の息子は当初の計画失敗の後はもっぱら土の学校事業に関わり、もち麦事業については敵対的ともいえる行動を取るようになりました。収穫後のもち麦を小袋詰めの製品へと作り上げてゆく個々の作業工程の現場に出てきては作業者に暴力を振るうなどです。会社の代表自らが自社の事業を妨害するという異常事態に長く耐えることは困難でした。2023年7月18日、柏たなか農園のもち麦は最後の納品となりました。

カテゴリー: 出荷情報 もち麦 経営

投稿日:2022年11月13日 12:36 pm



 前回のブログで麦刈り後の畑でスイカやサツマイモを栽培することが柏たなか農園の経営の中でどのように位置づけられていたのか、説明しました。ではもち麦の後作としてのスイカやサツマイモ、肝心の味はどうだったのでしょうか?

 

 麦類を収穫した後の畑では野菜の出来が良いと言われます。麦類の根は細かく土の中に張り巡らされるので土をよく耕したようになり多様な微生物を繁殖させてくれます。また畑の余分な肥料を吸収してくれるという効果もあります。さらに、同じ野菜を何年も続けて栽培すると特異な病害虫が発生しやすいなど連作障害が起きると言われていますが、越年作として麦類が間に入ることで連作の影響も軽減されます。柏たなか農園のもち麦も麦類なので、春にもち麦を収穫した後に作られる野菜たちには初めからきれいな畑が用意されていることになります。実際、農園でできたスイカは柏の青果市場に出荷して毎年かなり高い値が付けられています。

 

 もち麦の跡にはスイカ、サツマイモの他にもトマト、ナス、ピーマン、カボチャ、キュウリ、トウモロコシ、エダマメ、ラッカセイなども栽培したことがあります。これら“裏作の野菜”ももち麦と交互に栽培することによって畑の土壌が改善され良い結果が得られるはずです。




 柏たなか農園が体験農園というサービスタイプの事業から始めた理由の一つとして他の農家との販売競争を避けるためと説明しましたが農産物の販売を否定しているわけではありません。畑作農家として全くの新参者だった柏たなか農園としては、野菜の市場で経験と実績を持つ農家と初めから渡り合うことは避け、戦える作物を体験農園という事業を展開する中で育てていこうという戦略を採って来ただけのことです。設立から間もなくもち麦事業が立ち上がり農園の売上の過半を占めるようになりました。この先については、次の有力作物を見つけて育てることが一つの課題です。

 

 次の作物といっても目先売れそうだからというだけではだめです。かつてのもち麦のように他の農家がほとんど手を付けていないか、ほとんど競合しない作物を見つけられるでしょうか?栽培管理や商品化に人手をかけず、大きな設備投資もせずに取り組めるでしょうか?できることなら農園の近くに増えてきた子育て世代を中心とした都市住民のニーズに対応する商品やサービスが望ましい。そのような都合の良い作物を見つけられるでしょうか?ある程度の時間的な余裕はあります。あわてずじっくり探してゆけば良いでしょう。

 

 ここまで新規参入農家としての柏たなか農園の行き方を分析してみました。ここで一つ参考になる本を見つけました。この夏出版された『農家はもっと減っていい』(光文社刊)という本です。農産物の需要が加工用、外食用などに移行する中で供給側の農家も大規模化、規格化へと押し流され、ついて行けない中小規模の農家は淘汰されてゆくという説を述べています。書いた人は茨城県土浦市で6haの畑を経営する脱サラ農家で、既存の流通ルートに依拠しない販売方式など独自のビジネスモデルに基づいて経営を成り立たせてきたそうです。この本では中小農家はこの先急速に数を減らしてゆくとしながらも、大規模化、規格化の波に飲み込まれないように賢くかじ取りすれば生き残りのチャンスはあると説いています。

 

 私もおおむねこの本の説に賛成です。柏たなか農園の場合、農産物の販売ではなく都市に近接という立地条件を生かして農業体験というサービスに軸足を置いた事業を展開してきました。他の中小農家でも置かれた経営環境など個々の条件に対応したビジネスモデルを描くことができるはずです。この意味で農業というのは大変知的で創造的なビジネスだと思います。農業で生き残りを図ろうとする人、農業への新規参入を目指す人には大いに参考になりそうです。

投稿日:2022年11月11日 9:36 pm



 柏たなか農園の主力作物であるもち麦は晩秋に種まきして翌年春に収穫します。夏から秋にかけての畑を空けておくのはもったいないのでスイカやサツマイモを栽培してきました。なぜスイカやサツマイモ?そこには柏たなか農園独自の戦略がありました。キーワードは「都市型農業」。つくばエクスプレスの開通などで都市化が進んできた千葉県の柏市北部という地理的条件を最大限生かしたビジネス形態をめざした結果です。


 農園の事業は「土の学校」という会員制のサービスからスタートしました。これは野菜を単なる商品として消費者に買ってもらうのではなく、消費者に土の学校の会員になってもらい農園に来て野菜の種まきから収穫までの一連の作業を行い、最後に収穫物を持って帰ってもらうといういわば農家と同じ野菜栽培を体験するサービス型の商品です。このやり方なら野菜を売るために他の農家との熾烈な販売競争をしなくても済むし、収穫までの途中段階を体験でき、好きな時に畑の自然環境と触れ合うことができる--などの付加価値を付けた商品(サービス)として野菜を販売できるので付加価値分だけ収益を上げやすくなるという経営的なメリットがあります。



 このビジネスのキモは野菜を栽培する農業体験をしてみたいと考える人をどれだけ集められるかです。まずはたくさんの市民に知ってもらうために体験農園のことを紹介した会員募集チラシを大量に撒きました。一番近い新興住宅街であるつくばエクスプレス・柏たなか駅周辺の住宅街、少し離れた流山市、野田市、我孫子市などの住宅団地などにも配布しました。このほか市の広報紙などで告知宣伝したり、NHKの野菜作り講座でおなじみの先生にお願いして柏の東京大学ホールで講演会を開催したりもしました。さらに「百聞は一見に如かず」ということで一般市民に農園に来てもらい畑を見て野菜の収穫を体験してもらうイベントをいろいろ開催しました。この収穫体験に使ったのがもち麦の後作で栽培したサツマイモやスイカです。

 

 収穫体験の定番といえば秋の芋ほりです。サツマイモのつるで覆われた畑に入りつるを取り除いた後、土の中の芋を傷つけないようにスコップでそっと掘り進め、ごっそりと掘り上げる芋ほりは大人も夢中にさせます。収穫の後は芋の重さを測ったり、あらかじめ違う品種の焼き芋を作っておいて食べ比べしたりして最後に収穫した芋をお持ち帰りいただきます。




 夏のスイカ取りにも力を入れてきました。スイカの葉で覆われた畑の中からシマシマ模様のスイカの実を探すのが面白く、そのあとスイカの重さや甘さを測ったり、試食してからお持ち帰りといっぱい楽しんでもらうことができます。スイカを買ってきて食べるだけよりもずっと楽しい体験ができます。イベント参加費は安く設定しているので、お持ち帰りいただくスイカだけでも普通のスーパーの価格より安くなる計算で、お得感もたっぷりです。

 

 もちろん芋ほりやスイカ収穫体験は土の学校の実習メニューにも組み込んでいます。土の学校ではサツマイモやスイカの苗植付けから始まり草取りなどの栽培管理を体験してもらいます。最後の収穫作業だけ一般公募した収穫体験の参加者といっしょのイベントを楽しみます。農園のホームページには「都市と農業・農村を結ぶ」というキャッチコピーを載せています。さまざまな農業体験に参加することによって都市の住民に農業・農村との接点を感じてもらうことが農園の役割の一つと考えているのです。

投稿日:2022年3月16日 8:09 am

 「資材不足で大変なことになる」--ぼんやりウクライナ戦争のテレビを見ていて突如、気が付きました。あわてて資材を発注しました。もち麦の包装材に使うナイロン袋、中に入れる脱酸素剤、箱詰めに使う段ボール。案の定、ナイロン袋のメーカー在庫が底をつきかけていました。資材を扱う問屋さんの話では当社が注文した数量でぴったり在庫ゼロになったそうです。気が付くのが一瞬遅れていたらもち麦を袋詰めすることができず、あと1か月くらいでもち麦の製品在庫がなくなるところでした。危なかったです。

 世界はサプライチェーンでつながっておりどこか1カ所でも滞ると大変なことになると頭では分かっていても欧州の戦争が直ちにもち麦の事業に影響してくるとは想像力が働きませんでした。ぎりぎりのタイミングでもち麦用の資材を確保することができたのは幸運としかいえません。

 

 ウクライナ戦争の勃発からまもなく3週間、米国筋がロシア軍の動きに警鐘を鳴らし始めてから1か月近くに及んでいます。この間ガソリンをはじめ石油製品が急速に値上がり、先行き不安が買いだめをあおる形で需給がひっ迫しています。半導体製造や自動車の排ガス触媒に使われる希少金属も供給不足になり自動車メーカーが休業に追い込まれる事態です。

 

 この先資材不足と値上がりが日常化するのでしょう。さらに円安で輸入価格の上昇が重なり大変なことになりそうです。ユーラシア大陸の西側で起きていることはもはや対岸の火事だなどとのんきに構えている状況ではなくなりました。小さな農家にも確実に影響が及んできています。

投稿日:2021年12月31日 11:54 pm



 久々のブログですが、この空白の時間は柏たなか農園にとって大変な事態が進行していました。事業の継承問題です。手っ取り早い方法として身近にいる若い人に会社を任せようとしたのですが、結果は失敗でした。農業会社に必要なことは技術と営業ですがそのいずれもきわめて未熟でした。このまま突き進んでもうまくいきそうにないので、この秋のもち麦の種まきは面積を大幅に減らしました。本来なら今頃、畑は若いもち麦の葉の薄緑色で覆われているはずですが、写真のとおり、見えるのは枯れた雑草ばかりです。

 

 柏たなか農園は都市近郊型の農業会社なのではじめは都会の若者でも容易に引き継げると考えたのですが、いざやらせてみるとうまく行きません。例えば農業が好きだといっても小さな家庭菜園を楽しむのと広い農場を経営するのとはまるで違うのです。作物を栽培するため圃場の管理運営も面積規模が違うので同じ感覚ではうまく行きません。できた農産物もロットが大きいだけに販売ルートに乗せるのも大変です。余らせてしまったら大量廃棄という事態も起きかねません。つまり生産に入る前の段階から生産と販売の計画をしっかりと立て計画通り作業を進めなければなりません。農家なら当たり前のことですが、外から見ているだけでは分からないのです。

 

 千葉県柏市北部の耕作放棄地だった畑を再生させるところから柏たなか農園は始まりました。柏市は大都会のように思われますが北部と南部は大農村地帯です。そこでの農業は都市部に近接しているという「地の利」を考えて設立当初、柏市とその周辺に住む都市住民に野菜の栽培技術を教える「体験農園」という事業から始めました。その後主力作物となる「もち麦」の栽培を始めました。今でこそもち麦は広く知られるようになりましたが、当時は知る人も少なく、柏市とその周辺でもち麦を置いてくれる店を探して地道な営業活動をしてきました。2016年ごろから健康食品としてもち麦が注目され一気に全国区に駆け上がり生産が追いつかなくなりました。柏たなか農園も近くの農家に生産委託して生産量を増やしました。しかし常に不足というわけではなく、時に過剰になることもあります。そのたびに収益が上下に振れることになります。

 

 「体験農園」と「もち麦」という収益性の面でも2つの異なるタイプの事業を組み合わせることで会社を安定した成長軌道に乗せようとしてきました。このような経営の大枠がこの一年で崩れてしまいそうになりました。つまり、直接的、間接的に値上げすることによって目先の利益を上げようとしたのです。しかしながら客観情勢は容易に値上げを受け入れてくれるほど甘くはありません。

 

 この秋、柏たなか農園の畑ではもち麦の作付け面積を大幅に減らしました。もち麦の種まきは毎年11月です。種まきに先立ち排水対策、雑草対策、たい肥散布などの準備作業があり、ここから翌年5月の収穫まできめ細かい栽培管理をしなければなりません。素人さんが一連の作業をこなしていけるか、見通しが立ちません。やむなく今年の種まきは見送らざるをえなかったのです。柏たなか農園全体としては委託生産があるのでもち麦の生産量としては前年並みに近い収穫量を確保する計画ですが、自前の畑の生産量が減るのが残念です。事業を続けることの難しさを感じています。

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