「都市」と「近くの農業・農村」を結ぶ柏たなか農園のブログ

投稿日:2018年9月30日 11:51 pm

「柏たなか農園」というと「柏市の田中さんが経営する農園」だと思われることがよくありますが違います。つくばエクスプレスの「柏たなか駅」のすぐ近くにある農園ということで付けた名称です。正式には「株式会社 柏たなか農園」という農業会社です。スタートしたのが20089月、今月でちょうど10周年なのでこれまでの道のりを振り返ってみます。

  私は2007年に会社勤めを卒業しました。知り合いを頼って柏市内で農地を探したところ、市北部の田中地区で耕作放棄地化した約2ヘクタールの畑にたどり着きました。借りるに当たって地元の農家にも参加してもらう形にしたらどうかとアドバイスをいただき、私と地元の農家の共同出資で柏たなか農園を設立、この会社が農地を借りる形にしました。これが後々、事業を進める上で大いに助けになりました。

畑がある柏市北部の田中地区はつくばエクスプレスが通るまでは柏市でも一番の田舎でした。江戸時代には田中藩、明治になって田中村、その後合併して柏市になったという歴史を持つ純農村地帯です。2005年につくばエクスプレスが開通、柏の葉キャンパスと柏たなかの2つの駅ができ、沿線がにわかに都市化して行きました。

柏たなか農園はホームページで「都市と農業、農村を結ぶ」とうたっています。純農村時代の田中地区ではなく、つくばエクスプレス沿線に都市化の波が押し寄せるという新しい環境の中でビジネスを展開して行こうとの思いがあります。

会社設立の翌2009年3月には「体験農園・土の学校」を開講しました。都市住民を対象に家庭菜園での野菜の栽培方法を学んでもらう野菜作り学校です。たなか駅周辺にはすぐにも住宅が建ち並び、新住民が土の学校の講習を受けに殺到してくるだろうとの期待があったのですがその思惑は外れ、周りに住宅が建ち並ぶのはそれから7-8年経ってからでした。それでも柏たなか駅から少し離れた団地や流山市、我孫子市、野田市などからの会員が集まりとりあえず体験農園事業は軌道に乗るかに見えました。

ところが、2011年に東京電力福島原発の事故による放射能汚染とそれに伴う風評被害が首都圏全体に広がりました。中でも柏地域は“汚染度のひどいホットスポット”とされ、農産物の安全性を疑う声が拡散しました。野菜作り教室・土の学校の会員数も激減してしまいました。風評が薄れるとともに会員数は回復しましたが、原発事故が初期の柏たなか農園にとっての大きな痛手となりました。

柏たなか農園が体験農園という、いわば3次産業タイプの事業からスタートしたのは、いきなり販売目的の農産物の生産=1次産業タイプを始めても事業として成り立つか見通せなかったからです。土の学校でさまざまな野菜の栽培を試みながら採算がとれそうな品目を探っていこうと考えました。

有力な栽培品目は意外に早く見つかりました。2010年に千葉大学の柏キャンパスで開講中の社会人講座に出かけた時、受講者の一人が「一度試食してみませんか?」といってもち種の裸麦を持ってきてくれました。お米といっしょに炊いてみるとモチモチして美味しい。いわゆる麦飯(むぎめし)とはまったく違う食感でした。これが「もち麦」との最初の出会いです。麦の種まきは秋です。さっそく種麦を購入し、その年の秋にもち麦栽培を始めました。

調べてみるともち麦はメタボ対策に良いなど健康促進効果が学術的にも検証されており、欧米でも健康食品として評価されていることが分かりました。美味しいだけでなく健康食品としてしっかりした裏付けがあると知り、迷うことなく販路拡大に取り組みました。

とはいえ柏たなか農園の2ヘクタールの畑だけでは生産量に限りがあります。そこで柏たなか農園の出資者の一人である染谷農場の染谷さんに生産委託する形でもち麦の増産に協力してもらいました。染谷農場は経営面積が200ヘクタール近い千葉県有数の大農家です。

2015年ごろから、初めはNHKの番組で、その後民放テレビでも「健康食品・もち麦」がたびたび取り上げられるようになりました。メディアの後押しもあり販路が拡大、ここまでは順調に行くかに見えました。

ところが2017年にもち麦畑がすべて黒穂病に侵され、もち麦生産は壊滅状態に陥りました。約1ヶ月かけて黒穂を抜きまくり2ヘクタールだけ収穫しましたが柏たなか農園のもち麦事業は大きく後退してしまいました。

前年の失敗で経営は苦しい中でしたが、2018年は乾燥機をはじめもち麦関係で経営規模に見合わないほどの多額の設備投資をしました。幸い、2018年産もち麦は順調に生育、収量は元の水準を大きく超えることができました。収量増を受けて夏以後、販売面での失地回復に取り組んでいるところです。

農園スタートからの10年を振り返ると、うまく行きそうになると原発事故や黒穂病といった障害物が現れ、事業が順調だったとはいえません。累積赤字も抱えています。それでもここまでやってこられたのは、会社設立時点で地元農家との共同出資にしたことが大きかったと思います。初期の耕作放棄地状態から畑を起こしてもらったり、不要になったトラクターを安く譲ってもらったり、井戸水を分けてもらったり、竹林の竹を切り出してもらったりと出資者の農家さんにはずいぶんお世話になりました。中でも染谷農場の染谷さんには、黒穂病の発生で危機に陥ったもち麦の生産を助けていただき、主力のもち麦事業を辛うじて継続することができました。

もう一つ忘れてならないのは原発事故後、柏地方が特に放射能汚染度の高いホットスポットとされ農作物などに深刻な被害が及ぶ中で、柏市内の生産者と消費者が集まり「市民が受け入れることのできる安心・安全レベル」をまとめ、実際の計測に基づいて基準以下の農産物を流通できるようにしたことです。このことが契機となり、柏の農産物が柏市内だけでなく全国に受け入れられるようになりました。地域の危機ともいえる事態を打開する糸口となった柏市民の行動には今でも感謝し、また敬服しております。

農業ビジネスに参入してつくづく思うのはビジネスの環境がとても大事だということです。うまく行っている時は環境が暖かいか冷たいかはほとんど気にしなくてもすみます。ところが経営が苦しくなった時、周りの人たちが手をさしのべてくれたなら助かっていたものも、それ見たことかと潰しにかかられたら簡単に破綻してしまいます。この違いは大きいです。この点、千葉県柏市で農業ビジネスに参入できたことはラッキーだったと実感しています。

投稿日:2017年7月30日 9:46 pm



 畑の近くの田中近隣センターで30日、農園で採れたトマト、ナスなど夏の野菜をトッピングしてピザを焼こうという「ピザ焼き体験イベント」を開催しました。ピザ生地をこねるところから始めて、トッピングする野菜を切り刻んで上に載せ、オーブンで焼く作業は分かりやすく、参加した体験農園の会員さは全員「家のオーブンでも作れそう」とすっかりピザ焼きにはまっていました。



 柏たなか農園ではいま、トマト、ナスなど夏野菜が真っ盛り。これらの野菜を使ったイベントができないかと思案していたところに体験農園「土の学校」の会員さんから「採れたての夏野菜をトッピングしたピザを焼く体験講座を開催しませんか」と言われたのがことの始まりでした。暑い中、農園に通ってくる会員さんに聞いたところ「畑にピザを焼く窯を作るんですか?」などピザ焼きに興味を持つ人が意外に多かったので料理実習室のある公民館などの施設を探すなど本格的に取り組むことにしました。近くの田中近隣センターの料理実習室が週末でも案外予約が入っていないことが分かったので早速借りました。



 まずピザ生地。フツーに小麦粉をこねるだけでは違いが見えないので柏たなか農園の主力作物であるもち麦を生地に混ぜ込むことにしました。予め茹でたもち麦を用意して小麦粉の約4分の1の量を混ぜ込みます。トッピングにはトマト、ナス、ピーマン、万願寺トウガラシ、シシトウ、ゴーヤ、それにオクラも使いました。これらの野菜を片端から切り刻みピザ生地の上にのせて行きます。



 採りたての野菜を使うっていいですね。焼き上がったピザは一番上に振りかけたチーズ以外に動物性食品はなく、ほとんど精進料理ですが、もち麦入りのピザ生地の香りが良いなど大変好評でした。男性会員からはビールといっしょに食べたいとの声、焼いたピザすべてお持ち帰りされました。ピザ焼き、夏のイベントのネタになりそうです。







投稿日:2017年5月10日 5:15 am



 もち麦畑に黒穂病が蔓延して、大変なことになったという話を先月このブログに載せました。その黒穂病に侵された穂を抜き取る作業が昨日5時過ぎに終了しました。作業を始めたのが419日だったのでちょうど3週間でした。この間、GWの中で3日間だけ作業を中断しましたが、それ以外はほぼ毎日朝7時から夕方4時過ぎまで黒穂の抜き取り作業に明け暮れました。体への負担もさることながら今後の経営へのダメージもあり、東京電力福島原発による放射能汚染以来の経営危機と受け止めています。

 黒穂抜き取り作業を始めた419日はもち麦の穂がほぼ頭を出した程度でした。この時点で黒穂に侵された麦は黒い穂が出てくるのですぐ分かります。麦は分げつといって1粒の種が発芽したあと複数の茎をのばします。黒穂病は元になるタネ麦に侵入するので分げつした茎のてっぺんに形成される複数の穂が全員、黒い穂になります。最初の作業は黒い穂をみつけるや、分げつした茎をまとめて株ごと抜き取ります。



 今回黒穂抜き取りに挑んだ畑は委託先の農場の1.6haの畑でした。最初に穂が出てから次々に後続の穂が出てきます。穂が出始めたタイミングを狙って、黒い穂が出てきたら黒穂病に侵されたということですから、分げつした茎をまとめて根元から抜き取り、畑の外に運び出します。結構な重さで作業は基本、中腰です。中腰で何百、何千と持ち麦の黒穂を引き抜く作業は人の腰にかなりの負担がかかります。若い人に手伝ってもらいましたが、作業のしんどさに音を上げていました。

 この時点でまだ穂が出ていないもち麦があります。遅れて出てくるもち麦の黒穂や見落としていた黒穂を抜き取る作業を1.6haの畑でもう一度、展開します。こうして2段階に分けての黒穂抜き取り作業を進めました。合わせて3週間、体は完全に悲鳴を上げていました。それでも黒穂抜き取り作業を続けたのは、前回もここで説明しましたが、ももち麦を育ててくれた需要家の方々への供給をだけは2017年度も継続したいという思いからでした。

 今回の黒穂病の発生は黒穂抜き取り作業による体への負担だけでなく、柏たなか農園の経営という点でも大きな影響を及ぼしています。柏たなか農園は2011年の東電福島原発事故による放射能汚染でもち麦も廃棄しなければならなくなりました。今回の黒穂病で再びもち麦の生産販売を継続できるかどうか、瀬戸際に立たされています。まず、伝染病の発生を未然に防ぐ仕組みです。黒穂病の場合は種子消毒が必須ですが、他の伝染病に対しても適切な予防手段の確認、研究機関への相談窓口の確保なども重要だということが分かりました。農業経営は天候以外にもさまざまなリスクがあるといことを思い知らされました。

投稿日:2015年8月8日 11:52 pm

 千葉県柏市など東葛地方の農家が集まって自民党農林部会長の斎藤健代議士と農業を語る会を開きました。斎藤氏は都市部選出議員でありながら自民党農林部会のトップに就いたことでマスコミをにぎわせたこともあり、昨年地元農家との意見交換会を開催しました。今回はその第2回目です。この間、農協改革の大筋が決まるなど自民党農政の転換が具体化しつつあります。その中で典型的な都市近郊型農業地域である東葛地方の農業をどのように活性化して行くのか?議論が盛り上がりました。

 斎藤議員からは今年4月に「都市農業振興基本法」という法律を成立させたことと今後の展開について説明がありました。都市農業振興基本法という法律そのものが参加者にも知られていなかったようですが、これまで根拠が明確でなかった都市部の農地に対する課税の特例(宅地並み課税の回避、生産緑地制度など)を正当化する根拠になる法律であること、今年末の税制改正などにもさっそく影響が出てくることなどを説明していました。

 農地の宅地並み課税など、農家がいままでお目こぼしで課税を免れてきたような印象を与えたのに対して、新法が成立したことで都市部に農地を残しておくことの積極的な意味をアピールし、課税を軽減する必要性を納得してもらう根拠となるといいます。

 法律そのものには抽象的にしか書かれていませんが、農業一般ではなく「都市農業」独自の役割、存在価値が規定されたことの意味は思ったより大きいかもしれません。振興法では基本理念として「都市住民が身近に農業に親しむとともに農業に関して学習することのできる場…都市住民の農業に対する理解の醸成等の多様な機能を果たしている」を掲げています。まるで柏たなか農園で開催している体験農園「土の学校」の役割そのもののようにも受け止められます。具体的な振興策については市や町など地方自治体レベルの振興計画を作る中で明確になってくるので、やる気のない自治体では何も進まないということにもなりそうです。

農業の振興といっても、結局は農産物、その他のサービスを提供する力を引き上げてゆくことに行きついてしまいます。そのためには需要開拓、商品イメージの向上などが欠かせません。となると生産者=農家と販売・加工などの農産物を受け入れる側とでいかに良い関係を築いてゆくかが問われることになります。

 実際、農業への企業の新規参入の状況を見てみると、参入する流通・加工側は国内農産物の需要が伸びると見ており、この点が農家の見方と大きなかい離があり、せっかくのビジネス拡大の機会を農家側でなく流通加工側にもって行かれる恐れもある――斎藤議員はこう指摘しました。地域の農家と流通、加工などの需要家側がひんぱんに集まって知恵を出し合い農産物の需要をいっしょになって開拓している例もあるそうです。

 先進地域に学びつつ、東葛地域にしかできない都市近郊型の農業展開へと踏み出す時が来たようです。参加した農家の皆さんも手ごたえを感じていたようです。

投稿日:2014年4月21日 11:00 pm

千葉県北西部の柏、流山、野田、松戸あたりをまとめて東葛地方ということがあります。昔、東葛飾郡だったことから東葛飾、略して東葛というようです。この東葛地区で農業、農産物に関わっている人たちと自民党の齋藤健農林部会長の意見交換会を420日に開催しました。


齋藤議員は経済産業省出身で農政はまったくの門外漢にもかかわらず昨年10月に突如、自民党農林部会長(=自民党農政の取りまとめ役)に起用された議員で、異例の人事としてマスコミでも取り上げられました。門外漢ゆえに思い切った農業政策の転換ができるのではないかという期待感がある一方、自民党農林族の厚い壁もあり、どこまで踏み込んだ改革ができるか水面下で熾烈な戦いが繰り広げられているようです。

選挙区が東葛地区の流山、野田、松戸ということで今回、注目の人である齋藤農林部会長と地元の農業・農産物に関わる農家、市民との意見交換会が実現しました。会合に集まったのは柏、流山、野田で米や野菜を作っている農家、柏の青空市などで地元野菜を支援する活動をする人たちなどでした。野菜の販路開拓、ブランドの構築、後継者問題などさまざまな課題を抱えてこの会に参加してきました。

 齋藤議員によると、日本の農業を再生するための方策は、①加工流通への取り組み(6次産業化)、②海外の農産物需要を取りに行く=輸出促進、③国内産を外国産に優先して食べてもらう--の3つ、プラス共通の課題として農地集約化などによる生産性向上だそうです。東葛地区にはこれらの条件がそろっており、農業再生のモデルになるとの期待感を語っていました。ちょっと驚いたのは齋藤議員がTPPなどの貿易自由化の動きに必ずしも与していないということでした。「世界的な食料不足に備えておくことが必要であり、農業は貿易自由化とは切り離して考えるべきだ。政府はそのことを堂々と言うべきだ」と主張していました。

 今回の意見交換会に先立ち、齋藤議員が中央公論20143月号に寄稿した「我々はなぜ農業政策を転換したか」という記事を読みました。この記事の中で齋藤議員はコメ過剰対策の一つとして取り上げられている飼料米への転換にかかる費用=国民の負担について「農家のためではなく、子と孫たちのために払いたいと思う」としています。農業政策を農家のためではなく自分の問題ととらえているということが大変印象的でした。

カテゴリー: 柏たなか 農業問題