「都市」と「近くの農業・農村」を結ぶ柏たなか農園のブログ

投稿日:2022年11月13日 12:36 pm



 前回のブログで麦刈り後の畑でスイカやサツマイモを栽培することが柏たなか農園の経営の中でどのように位置づけられていたのか、説明しました。ではもち麦の後作としてのスイカやサツマイモ、肝心の味はどうだったのでしょうか?

 

 麦類を収穫した後の畑では野菜の出来が良いと言われます。麦類の根は細かく土の中に張り巡らされるので土をよく耕したようになり多様な微生物を繁殖させてくれます。また畑の余分な肥料を吸収してくれるという効果もあります。さらに、同じ野菜を何年も続けて栽培すると特異な病害虫が発生しやすいなど連作障害が起きると言われていますが、越年作として麦類が間に入ることで連作の影響も軽減されます。柏たなか農園のもち麦も麦類なので、春にもち麦を収穫した後に作られる野菜たちには初めからきれいな畑が用意されていることになります。実際、農園でできたスイカは柏の青果市場に出荷して毎年かなり高い値が付けられています。

 

 もち麦の跡にはスイカ、サツマイモの他にもトマト、ナス、ピーマン、カボチャ、キュウリ、トウモロコシ、エダマメ、ラッカセイなども栽培したことがあります。これら“裏作の野菜”ももち麦と交互に栽培することによって畑の土壌が改善され良い結果が得られるはずです。




 柏たなか農園が体験農園というサービスタイプの事業から始めた理由の一つとして他の農家との販売競争を避けるためと説明しましたが農産物の販売を否定しているわけではありません。畑作農家として全くの新参者だった柏たなか農園としては、野菜の市場で経験と実績を持つ農家と初めから渡り合うことは避け、戦える作物を体験農園という事業を展開する中で育てていこうという戦略を採って来ただけのことです。設立から間もなくもち麦事業が立ち上がり農園の売上の過半を占めるようになりました。この先については、次の有力作物を見つけて育てることが一つの課題です。

 

 次の作物といっても目先売れそうだからというだけではだめです。かつてのもち麦のように他の農家がほとんど手を付けていないか、ほとんど競合しない作物を見つけられるでしょうか?栽培管理や商品化に人手をかけず、大きな設備投資もせずに取り組めるでしょうか?できることなら農園の近くに増えてきた子育て世代を中心とした都市住民のニーズに対応する商品やサービスが望ましい。そのような都合の良い作物を見つけられるでしょうか?ある程度の時間的な余裕はあります。あわてずじっくり探してゆけば良いでしょう。

 

 ここまで新規参入農家としての柏たなか農園の行き方を分析してみました。ここで一つ参考になる本を見つけました。この夏出版された『農家はもっと減っていい』(光文社刊)という本です。農産物の需要が加工用、外食用などに移行する中で供給側の農家も大規模化、規格化へと押し流され、ついて行けない中小規模の農家は淘汰されてゆくという説を述べています。書いた人は茨城県土浦市で6haの畑を経営する脱サラ農家で、既存の流通ルートに依拠しない販売方式など独自のビジネスモデルに基づいて経営を成り立たせてきたそうです。この本では中小農家はこの先急速に数を減らしてゆくとしながらも、大規模化、規格化の波に飲み込まれないように賢くかじ取りすれば生き残りのチャンスはあると説いています。

 

 私もおおむねこの本の説に賛成です。柏たなか農園の場合、農産物の販売ではなく都市に近接という立地条件を生かして農業体験というサービスに軸足を置いた事業を展開してきました。他の中小農家でも置かれた経営環境など個々の条件に対応したビジネスモデルを描くことができるはずです。この意味で農業というのは大変知的で創造的なビジネスだと思います。農業で生き残りを図ろうとする人、農業への新規参入を目指す人には大いに参考になりそうです。

投稿日:2022年11月11日 9:36 pm



 柏たなか農園の主力作物であるもち麦は晩秋に種まきして翌年春に収穫します。夏から秋にかけての畑を空けておくのはもったいないのでスイカやサツマイモを栽培してきました。なぜスイカやサツマイモ?そこには柏たなか農園独自の戦略がありました。キーワードは「都市型農業」。つくばエクスプレスの開通などで都市化が進んできた千葉県の柏市北部という地理的条件を最大限生かしたビジネス形態をめざした結果です。


 農園の事業は「土の学校」という会員制のサービスからスタートしました。これは野菜を単なる商品として消費者に買ってもらうのではなく、消費者に土の学校の会員になってもらい農園に来て野菜の種まきから収穫までの一連の作業を行い、最後に収穫物を持って帰ってもらうといういわば農家と同じ野菜栽培を体験するサービス型の商品です。このやり方なら野菜を売るために他の農家との熾烈な販売競争をしなくても済むし、収穫までの途中段階を体験でき、好きな時に畑の自然環境と触れ合うことができる--などの付加価値を付けた商品(サービス)として野菜を販売できるので付加価値分だけ収益を上げやすくなるという経営的なメリットがあります。



 このビジネスのキモは野菜を栽培する農業体験をしてみたいと考える人をどれだけ集められるかです。まずはたくさんの市民に知ってもらうために体験農園のことを紹介した会員募集チラシを大量に撒きました。一番近い新興住宅街であるつくばエクスプレス・柏たなか駅周辺の住宅街、少し離れた流山市、野田市、我孫子市などの住宅団地などにも配布しました。このほか市の広報紙などで告知宣伝したり、NHKの野菜作り講座でおなじみの先生にお願いして柏の東京大学ホールで講演会を開催したりもしました。さらに「百聞は一見に如かず」ということで一般市民に農園に来てもらい畑を見て野菜の収穫を体験してもらうイベントをいろいろ開催しました。この収穫体験に使ったのがもち麦の後作で栽培したサツマイモやスイカです。

 

 収穫体験の定番といえば秋の芋ほりです。サツマイモのつるで覆われた畑に入りつるを取り除いた後、土の中の芋を傷つけないようにスコップでそっと掘り進め、ごっそりと掘り上げる芋ほりは大人も夢中にさせます。収穫の後は芋の重さを測ったり、あらかじめ違う品種の焼き芋を作っておいて食べ比べしたりして最後に収穫した芋をお持ち帰りいただきます。




 夏のスイカ取りにも力を入れてきました。スイカの葉で覆われた畑の中からシマシマ模様のスイカの実を探すのが面白く、そのあとスイカの重さや甘さを測ったり、試食してからお持ち帰りといっぱい楽しんでもらうことができます。スイカを買ってきて食べるだけよりもずっと楽しい体験ができます。イベント参加費は安く設定しているので、お持ち帰りいただくスイカだけでも普通のスーパーの価格より安くなる計算で、お得感もたっぷりです。

 

 もちろん芋ほりやスイカ収穫体験は土の学校の実習メニューにも組み込んでいます。土の学校ではサツマイモやスイカの苗植付けから始まり草取りなどの栽培管理を体験してもらいます。最後の収穫作業だけ一般公募した収穫体験の参加者といっしょのイベントを楽しみます。農園のホームページには「都市と農業・農村を結ぶ」というキャッチコピーを載せています。さまざまな農業体験に参加することによって都市の住民に農業・農村との接点を感じてもらうことが農園の役割の一つと考えているのです。

投稿日:2021年5月22日 11:38 pm

 柏たなか農園の人気者だった雄ヤギのアオくんが先週亡くなりました。私にとっては単に愛玩動物を失ったというより、かけがえのない従業員を一人失ったような気持ちです。いつかくる別れとはいえ、農園の風景もすっかりさびしく感じられ、気持ちが落ち込んでいます。

 あっという間でした。亡くなる2日前は少し動きが鈍くなった程度でした。草を食べさせに移動してもついてきたのですが、翌日は小屋の近くで寝そべったまま動こうとせず、そのうちうめき声を漏らすようになりました。最後の日は土曜でしたが獣医の先生に連絡、診てもらうことにしていました。残念ながら先生の到着を待たずに逝ってしまいました。


 大人のヤギが死ぬと家畜保健衛生所という県の機関にすぐ連絡しなければならないと言われました。休日明けの月曜日に連絡したところ家畜保健衛生所の職員がすぐに農園まで来て、アオくんの遺体を載せて行ってくれました。その後、畑の隅で遺体にかぶせておいたワラコモを焼いてアオくんの冥福を祈りました。


ヒマさえあれば農園の草を食べ、時々胃の中のモノを口に戻してかみ直し(ヤギは反芻動物)をやっていたアオくん。近くの道路に犬の散歩をする人が見えるとじっと動かなくなり犬と人が見えなくなるまで警戒態勢を解かないほどの臆病モノ。瞳孔が横長で一見間抜けな印象を与え、それが見るモノに安心感を与えてくれました。だからアオくんはいつも農園の人気者。アオくんほど人に安心感を与えるような存在は考えられないと、いなくなって改めて思います。


 アオくんのいない農園はさびしい。いつもは朝、農園のゲートを開けるとアオくんが「何かいいことないかなー」というような顔をしてヤギ小屋からこちらを見ています。そこで美味しそうな草のある場所に連れて行き杭でつないでおきます。農園から引き上げるときは一人で小屋の前に立ってこちらを見ていました。そのアオくんの姿はもうどこにも見えません。今になってかけがえのない存在だったと分るのです。

 アオくんは9年前の20124月に農園にやってきました。同じ日に生まれた雄の兄弟で身体が大きい兄貴分の方をキイロくん、少し小さくてやせ形の方をアオくんと呼ぶことにしました。キイロくんは農園の主力作物であるもち麦を食べ過ぎて栄養過剰で早くに死んでしまいました。結果的には兄貴に意地悪されてもち麦を十分食べられなかったアオくんが生き延びました。そのアオくんもいなくなり、9年前の2頭は今はもう1頭もいません。いたずら盛りだった2頭のことを静かに思い出しています。
カテゴリー: 土の学校 イベント

投稿日:2020年10月31日 11:49 pm



 農園の秋の一番のイベントといえばイモ掘りです。10月は3回開催しましたが2回目に予定していた17日が雨天で翌18日に変更となり、都合悪かった人が流れ込んだこともあり31日は110人を超える、農園としてはかつてないものすごい参加者数になりました。




 イモ畑いっぱいに広がる芋の枝葉を取り除くことから始めます。芋のつるを残していたのでは仕事にならないのでまず枝葉をまとめて畑の外に出します。それからやっとイモ掘りが始まります。この日の参加者はほとんど子連れです。親たちはできるだけ子どもにイモ掘りの作業をさせたいのですが、子どもにやらせても作業ははかどりません。イモ畑を区切って参加者ごとに区画を割り振るのですが、参加者も早いチームと遅いチームができてしまいます。農園長の私が声を張り上げて作業の指示をするのですが、「イモ掘りは競争ではありません」と最初に断っているのでせかせたくありません。結果、のどかな時間が過ぎていきます。




 掘り出した芋を軽トラで運んで畑の広場のビニールシートに広げます。その後は掘り出した芋をみんなで山分けします。この日はたくさん掘り出せたのでその分、たくさんのイモをお持ち帰りいただくことができました。その後、もみ殻くん炭焼き器を使って焼き上げる農園特製の焼き芋を試食してもらいました。




 最後は農園のあちこちを回って作物を収穫してもらう農園ツアー、ハロウイーンカボチャのくりぬきワークショップ、たき火と3コースに分かれて農園の秋を最後まで楽しんでもらいました。1031日がちょうどハロウイーンに重なったこともあり参加者数が多くなりすぎないかと心配でしたがちょうどカボチャの数だけ参加者が集まってくれて、みんなで自作のハロウイーンカボチャをお持ち帰りいただくことができました。農園ツアーでは広~い農園全体を案内し、ピーマン、コマツナなど農園の畑に植わっている野菜を収穫してもらいました。




 今回、参加者数がとてつもなく多くなったのは、やはりコロナによる感染者の広がり、人が集まる場所への集中が規制されるなどの中で、残された数少ない開放空間ということで農園に人気が集まったのだと思います。

投稿日:2020年9月24日 10:56 pm



 秋の畑の楽しみはイモ掘りです。今年のサツマイモは試し掘りしてみたところサイズが少し小さめです。理由はよく分りませんが、長梅雨で日照時間を確保することができなかったことが芋の生育に影響したと思われます。

 今年は広い畑を目いっぱい使ってサツマイモの苗を植付けました。といっても植付けた苗の本数は前年と同じか少し増えた程度で、ただ芋の畝と畝の間を5mと広~く取ってみました。畝間5mというとスイカ並みの広さです。少し広すぎる気もしますがのびのびとつるを伸ばしてもらえば良い芋が採れるのではないかと勝手に考えてのことです。




 実際の芋の成長ぶりは天気にも左右されるのでなかなか当初の計画どおりには行かないものです。特に今年は6月下旬にイモ苗を植付けた後、7月の1ヶ月間まるまる雨模様の曇天続きでした。初期成長がうまく行くはずがありません。ところが月が変わると同時に梅雨が明けました。それでも8月の高温と晴天続きで遅れを取り戻せるかどうか、まったく見当つきませんでした。結果的には芋のつるは急速に伸びて広い畝間を覆い尽くすほどになりました。ただ、7月の1ヶ月間、日照が極端に少なく8月、9月を合わせてのトータルの日照時間は平年をかなり下回りました。このため芋を太らせるのに必要な日照時間は十分確保できたとは言えません。




 芋の種類は安納イモとベニハルカの2種類。安納イモは焼き芋にするととろ~りととろけるような甘さになるのが特徴です。ただ、もともと南国育ちの品種で寒さに弱く冬に保存しづらいのが難点です。これに対してベニハルカは安納イモに比べると寒さに強く冬まで持たせることも可能です。

 焼き芋はやはり寒い季節ほど暖かさが身にしみ美味しさがいっそう増すのでこれまでは安納イモを多めに植えていたのですが、今年は寒さ対策のことも考えほぼ同数の苗を植付けてみました。


 結果は、ベニハルカは植えた苗がほとんどそのまま育ってくれましたが安納イモは途中で枯れてしまうものが続出、全体の3分の2くらいに減ってしまいました。つるの伸び方もベニハルカの方が広がりが大きく、スイカ並みの畝幅5mの広~い畝間を覆いきってしまうほどです。これに対して安納イモは畝間を覆い尽くすまでにはならず、ところどころ地面が露出しているところが見えます。



 今年のサツマイモ栽培はトータルとしてお天気に恵まれたとは言えません。では天候不順への対策はどうあるべきだったのだろうかと改めて考えてしまいます。振り返ってみて、7月の曇天続きの時に何らかの対策があったのでしょうか? 遅い梅雨明けの後に打つべきカンフル剤のようなものは思いつきませんでした。当農園でやれたことといえば草取りくらいです。そもそも7月の長梅雨がいつまで続くかわからず、8月に入れば夏らしい天気が戻ってくるという保証はどこにもなかった訳で、気象の変動を予想して対策を立てるなどできなかったでしょう。

 来年以後に備えて原因と対策を考えておかなければならないはずですが、正直言ってよく分りません。気温はこのところ下降線をたどっています。ホカホカの焼き芋が恋しくなってきました。

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