「都市」と「近くの農業・農村」を結ぶ柏たなか農園のブログ

キムチ漬けの素が入手難になったわけ

投稿日:2015年12月18日 12:10 pm


 毎年冬に開催してきたキムチ漬けを作る会、今シーズンはできないかもしれないと一時、心配な状況になっていました。キムチ漬けの素になる発酵バクテリアを販売する業者がいなくなってしまったからです。このバクテリアは「HS-1」という乳酸菌の一種で、茨城県の工業技術センターがキムチからの分離培養に成功したものです。このHS-1の原液を使って産業用、一般用の販売が広く行われるようになりました。ところが、先月、いくつかの販売元に問い合わせたところ全ての業者が「個人用には販売しておりません」と断ってきました。そこで以前知り合った元研究員の方に無理をお願いしてHS-1の原液を1リットル作ってもらい、何とか今シーズンのキムチ作りの会を開催するめどがつきました。大事なHS-1は小さな容器に小分けして大事に保存しています。

 漬けものは発酵食品ですから発酵させるためのバクテリアが必要です。キムチ漬けはHS-1というバクテリアが働いてキムチが漬かって行くのだそうです。韓国などで作られている従来のキムチ漬けはHS-1が多くいそうな場所にキムチ漬けの材料であるハクサイはじめ多種類の野菜を置いておくことで自然にキムチ漬けができてゆくという製法でした。ここではHS-1が他のバクテリア=雑菌と競争する中で、HS-1だけが勝ち残れるように繁殖条件を整えることが重要になります。漬け込む場所や温度などによってHS-1の繁殖条件は微妙に変わってくるので、韓国の家庭の主婦らの漬け込み技術がものを言う世界だったのです。半面、経験の浅い人がキムチ漬けを作ろうとすると、HS-1が他の雑菌に負けて失敗=漬けものが腐ってしまうといこともひんぱんに起こりうるのです。

 HS-1が分離培養されるようになってからは、はじめから材料となる野菜にHS-1を大量に吹きかけるなどして、他の雑菌が広がる前にHS-1を繁殖させることができるようになりました。HS-1漬けにいろいろな野菜、魚介類などを加えることで、経験のあるなしに関わらず失敗のないキムチ漬けができます。HS-1の原液さえあれば誰でも簡単にキムチ漬けを作れるようになりました。



 そこでこのHS-1を使って、柏たなか農園の地元である千葉県柏地方の野菜を材料にした「柏キムチ」を作る会をここ数年開いてきたのですが、素になるHS-1が入手できなければ「柏キムチ」を作ることができません。それで一時は「柏キムチの会」の開催が危ぶまれる事態にもなりました。

 HS-1が入手できなくなった原因は簡単です。茨城県工業技術センターから原液を譲り受けて培養し市販していた業者が「採算が取れない」との理由で販売を中止してしまったからです。HS-1の最大の需要家はキムチ漬けを製造販売している漬物業者ですが、彼らはHS-1原液を自社内で培養することができるので最初に原液を購入するだけで、販売するキムチ漬けに必要なHS-1の全量を購入する必要はないのです。漬物業者への最初の原液販売が一巡すると、後は原液を培養することができない個人の需要だけになってしまいます。それでも自分でキムチを作ろうという消費者が多数いるなら個人用の需要だけでビジネスになるかもしれませんが、日本の一般家庭でキムチ作りが普及している状況ではありません。というわけでHS-1は2014年までで一般向けの市場からほぼ消え去ってしまったのです。

 HS-1の市販品消滅は、漬け物などに使う微生物の供給体制を作り上げることのむずかしさを物語っています。せっかく簡単にキムチ漬けを作ることができるバクテリア=HS-1が抽出されたのに、HS-1を大量に必要とするプロの漬け物業者は自前で培養できてしまうので、大口の需要家にはなりません。一方、一般家庭の需要はあまりに小口で多少単価を高くしても供給側としては採算がとれそうもありません。その結果、誰でも簡単にキムチを作れる技術があるのに必要なキムチ漬けの素=HS-1が市販されないためにその技術を一般家庭で利用することができないという残念な事態が引き起こされているのです。

 それでも今シーズンは研究センター関係者を通じて何とかHS-1を入手し「柏キムチの会」を開催できる見通しとなりました。12月、1月、2月と3ヵ月にわたって開催することにしており、第1回目は12月23日に予定しています。参加条件など「柏たなか農園のホームページのお知らせ欄」に掲載します。もちろん柏地方に住んでおられなくても参加はできます。たくさんの方のご参加をお待ちしております。

 

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